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名古屋高等裁判所 昭和61年(行コ)14号 判決

愛知県豊橋市花田二番町三六番地

控訴人

柴田隆治

愛知県豊橋市前田一丁目九番地の四

被控訴人

豊橋税務署長

田中成三

右訴訟代理人弁護士

今枝孟

右指定代理人

宮沢俊夫

岩崎恭丈

前川晶

加藤光明

主文

本件訴訟を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取消す。控訴人の昭和五六年分、昭和五七年分、昭和五八年分の各所得税について、被控訴人が昭和五九年七月六日付でなした更正並びに過少申告加算税を賦課する旨の決定(ただし、何れも異議決定により一部取消された後のもの。以下同じ。)を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上法律上の主張並びに証拠関係は左に付加訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

1  原判決五丁表六行目の「一二五条一項一号」とあるのを「一二五条一号」と訂正する。

2  原判決七丁裏九行目のあとに改行して次のとおり加える。

「しかるに昭和五九年六月二〇日午後菅沼良安国税調査官が控訴人方に来て一時間あまり質問と雑談をし、翌二一日午後再び控訴人方を来訪して控訴人に対し控訴人の事業所得につき左記金額に更正申告するよう求めた。

昭和五六年分 金四三六万二五三三円

昭和五七年分 金四九三万九一八一円

昭和五八年分 金四九七万四四七四円

そこで控訴人は同調査官に対して右の金額の算出根拠について釈明を求めたが、何らの答弁もなかった。そして右の金額が同年七月六日付の更正処分通知書の金額となったのである。

国税通則法二四条は『その調査したところにより』更正する旨を定めているところ、一夜にして右の金額が示されたのであるから、被控訴人の調査や証拠が存在するはずがなく、これらは『思いつき』『あてずっぽう』の類のものであって、控訴人としては到底承服できるものではない。

したがって本件課税処分は右国税通則法二四条に違背するものである。」

3  原判決八丁表八行目の「このように、」とあるのを「このような処分は国税通則法二四条に違背するものであり、」と訂正する。

4  原判決八丁裏三行目の「いる。」とあるのを「おり、憲法三二条に違背するものである。」と訂正する。

5  原判決九丁表三行目のあとに改行して次のとおり加える。

「すなわち右の固定資産評価額は実際の価額の数分の一であり、これでは減価償却費は正当な額の数分の一になってしまうことは明らかである。」

6  原判決九丁表五行目のあとに改行して次のとおり加える。

「5 次に被控訴人は本件更正において所得税法七四条による当該年度分の社会保険料控除をしていない。但し、昭和五六年分ないし同五八年分について各更正及び異議決定による所得増加に対応する社会保険料の新たな増加額は、控訴人においてまだ支払っていない。

6 本件更正は国税通則法八三条三項九八条二項に違反し、かつ同法二六条の処分について二八条の手続が欠落しており瑕疵がある。

7  昭和五六年、五七年分の本件更正は国税通則法一条に違反する。

8  本件課税処分は憲法八四条に違反するものである。

9  原判決には民訴法一八六条の違反がある。なぜなら、控訴人は原判決添付別表一の事業所得の金額(とくに更正欄及び異議欄のそれ)を問題にしているのに、原判決は同別表二の事業所得の金額につき審理判断をしているにすぎないからである。」

7 原判決九丁裏九行目のあとに次のとおり加える。

「5 控訴人の反論5項のように本件更正において社会保険料の控除されていないことは認める。しかしこの点の主張は失当なものである。

6 控訴人の反論6ないし9は争う。」

8  当審における証拠関係は当審記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がなく失当として棄却すべきものと判断する。その理由は左に付加訂正するほかは原判決の理由と同一であるからここにこれを引用する。

一  原判決一三丁表一〇行目のあとに改行して次のとおり加える。

「次に控訴人は被控訴人において国税通則法二四条に定める調査をしないで控訴人の昭和五六年ないし同五八年分の事業所得を認定したと主張するが、成立について争いのない乙第三号証の一ないし三、第四ないし第六号証、原審証人菅沼良安の証言によれば、被控訴人は、その調査したところに基づき、特に被控訴人は相当の日時を費して前記推計課税のための早急の、一応の調査を行いこれに基づき、推計の方法で控訴人の前記事業所得、総所得金額等を認定し、本件更正及び本件異議決定に及んでいることを優に認めることができるから、この点によ関する控訴人の主張は採用できない。」

二  原判決一四丁表八行目の「一二五条一項」とあるのを「一二五条一号」と訂正する。

三  原判決一五丁表六行行目の「い。」のあとに「また控訴人は、被控訴人の右の処分は憲法三二条に違背すると主張するが、右は独自の見解であって採用しがたい。」を加える。

四  原判決一五丁表六行目のあとに改行して次のとおり加える。

「六 控訴人の反論5項について

右の控訴人の主張は必ずしも明確とはいいがたいが、本件更正による所得増加分に対応する社会保険料の増差分が当該年度の総所得金額から控除されるべきであるのにこれを無視してなされいてる本件更正は違法であるとの趣旨に解される。

しかしながら控訴人は本件更正及び異議決定による所得増加分に対応する社会保険料を支払っていないことを自認しているので、所得税法七四条にいう『支払った場合」に該らないことが明らかであり、従って、控訴人の右主張は右の点ですでに失当である。

七 次に控訴人の反論6-7項の主張は具体性がなく採用のかぎりではなく、もとより本件課税処分に控訴人主張のような法律違反や瑕疵は認められない。

八 次に控訴人の反論8項の主張は独自の見解であって採用できず、もとより本件課税処分に右主張のような憲法違反は認められない。

九 次に控訴人の反論9項の主張については、なるほど、本件において控訴人が、原判決添付別表一の事業所得の金額(とくに更正欄及び異議決定欄のそれ)を問題とし、原判決が同別表二の事業所得の金額につき審理判断をしていることは訴訟上明らかであるが、同時に、原判決が、前者の金額を基礎とする控訴人の本件当該年度の総所得金額が後者の金額を基礎とする控訴人の本件当該年度の総所得金額の範囲内にあるから、本件更正は適法であると判断していることも控訴上明らかであるところ、右判断は相当であって、これに違法の点はなく、原判決にはもとより民訴法一八六条違反の廉はない。」

五  原判決一五丁七行目冒頭の「六」を「九」と改める。

以上の次第で右と同旨の原判決は相当であって本件訴訟は理由がない。

よって本件控訴を棄却することとし、行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条九五条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老塚和衛 裁判官 高橋爽一郎 裁判官 野田武明)

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